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『房思琪(ファンスーチー)の初恋の楽園』=林奕含(リンイーハン)・著、泉京鹿・訳(白水社・2200円)
読む前は、初恋というタイトルや、その対極の「少女が塾教師にレイプされた」というあらすじに、よそよそしい気持ちでいた。「実話をもとにした小説」というだけあって、いずれにせよ、作者の自意識にあふれた物語だろうと思ったからだ。
作品に満ちていたのは、痛みだった。注射をしているとき、いつの間にか息をとめているように、読みながら体がこわばっていた。
内容説明
台湾・高雄の高級マンションに住む13歳の文学好きな美少女・房思〓(ファンスーチー)は下の階に住む憧れの50代の国語教師に作文を見せに行き強姦され、その関係から抜け出せなくなる…世界の裏側を見てしまった少女のもう一つの愛の物語。台湾社会を震撼させた、実話に基づく傑作長篇。
著者等紹介
林奕含[リンイーハン]
1991年3月16日~2017年4月27日。台湾・台南で名の知られた皮膚科医の娘として生まれ、幼少期から作文や数学で優秀な成績を収め、学内外で多くの表彰を受ける。高校二年のときにうつ病を患う。2009年、台北医学大学医学部に入学するが、二週間で休学。その後、三度の自殺未遂。2012年に国立政治大学文学部中国文学科に入学、三年生のときに再び休学。2017年2月初めに、デビュー作であり唯一の著作である『房思〓の初恋の楽園』を出版。その二か月後に自殺
泉京鹿[イズミキョウカ]
1971年、東京生まれ。フェリス女学院大学文学部日本文学科卒業。北京大学留学、博報堂北京事務所を経てライター、メディアコーディネーター、翻訳者として16年間北京で暮らす。大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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出版社内容情報
台湾社会を震撼させた、実話に基づく傑作
著者は1991年生まれの女性作家。デビュー作である本書に「実話を基にした小説である」と記したことから、著者の実体験なのではと大騒ぎとなった。刊行2か月後に著者が自殺。台湾社会を激震させた。
文学好きな房思琪と劉怡?は高雄の高級マンションに暮らす幼なじみ。美しい房思琪は、13歳のとき、下の階に住む憧れの50代の国語教師に作文を見てあげると誘われ、部屋に行くと強姦される。そして異常な愛を強いられる関係が続くことになってしまう。房思琪の心身はしだいに壊れていく。劉怡?は、房思琪が記した日記を見つけ、5年に及ぶ愛と苦しみの日々の全貌を知る……。
一方、同じマンションの最上階の裕福な家庭に嫁いだ20代の女性・伊紋の物語も同時に描かれる。伊紋は少女2人によく本を読んであげていた。だが実は夫からのDVに悩み、少女らに文学を語ることが救いとなっていたのだ。
人も羨む高級マンションの住民たちの実情を少女の純粋で繊細な感性によって捉えることで、社会全体の構造的な問題が浮かび上がってくる。過度な学歴社会、格差社会、権力主義の背後にある大人の偽善、隠蔽体質……。なぜ少女の心の声を大人が気づけなかったのか。文学の力とは何か。多くの問いを投げかける。