1泊限定390円――。大阪市西成区のホテルが激安の特別料金プランを打ち出した。赤字覚悟の企画には、西成で長年働いてきたホテル従業員の、ある思いが込められていた。
日雇い労働者の街・あいりん地区にほど近いJR新今宮駅前の「ホテルサンプラザ」(340室)。390円で宿泊できるのは、通常価格2千円の部屋で、広さ約3・5畳(約6平方メートル)の和室と洋室がある。いずれもテレビ(14インチ)、エアコン付きでWiFi(ワイファイ)も無料接続できる。トイレと浴室は共同だが、男性は11階の展望大浴場が使える。
このホテルは、西成区内でホテル4カ所を運営する「ジュノン」(大阪市)が1989年にオープンした。関西空港へのアクセスのしやすさと低価格で2015年ごろから外国人観光客が急増。日本人のビジネス客や観光客の利用も増え、客室稼働率は平日で約80%、週末は満室状態が続いていた。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で昨年3月には客の半数ほどを占めていた外国人の姿が消えた。日本人客も減り、1度目の緊急事態宣言が出た昨年4月以降、客室稼働率は大幅に下がって、30%前後で推移している。
空室をどう埋めるか。同社販売促進課の角谷正樹さん(47)が「仕事や住まいを失った方の役に立てる」と提案したのが、390円の特別価格だった。しかし社内の反応は厳しく、「赤字になるから無理」「やって何の意味があるのか」などと猛反対された。
だが角谷さんには譲れない思いがあった。29歳で入社し、フロント係をしていた当時の客層は、西成に仕事を求めた日雇い労働者が主だった。チェックアウト業務が落ち着く午後になると、話し相手を求めてフロントを訪れる宿泊客の身の上話を聞くようになった。
「50歳で仕事を失い、多額の借金を背負い、家族もバラバラになった」「子どもの頃に親から虐待を受けて施設で育ち、まともな教育を受けられなかった」。彼らは様々な理由で生活に行き詰まり、この街にたどり着いていた。
コロナ禍が続くうち、そんな人たちに思いをはせた。「自分の力だけでは、人生はどうにもならないことがある。今こそ誰かの役に立てる時だ」と、突き動かされた。
社内の雰囲気が変わった
社内の雰囲気が変わったのは今年1月14日、2度目の緊急事態宣言が出た後だ。「ホテルのことを知ってもらうきっかけにもなる。色々なチャレンジをしてみよう」と角谷さんの提案が支持され、2カ所のホテルで1月18日からサービスが始まった。
原文出處 朝日新聞
分類